洗うと風合いが変わる理由は

僕はお預かりさせて頂いた衣服は常に「素材が本来持つ自然な風合いを大切に」と思い、お手入れをさせて頂いています。

料理人の方が素材の持ち味を生かすと言われるように、「素材が本来持つ自然な風合いを生かす」よう心掛けてお手入れをさせて頂いています。

特に天然繊維を使用した衣服には仕上げ剤や加工剤といったものに頼らずに、丁寧で優しく衣服に合った洗浄方法を用い、ハンドアイロンによるプレスやブラッシング等を施す事により心地良い風合いが出せるよう仕上げています。

実際、上質の天然繊維は手間暇を掛けてあげるとそれに応えてくれますしね。

それが何とも嬉しくなります。

だから手間暇が掛かっても手を抜かずに丁寧にお手入れをさせて頂いています。

でも歯がゆいのは手間暇を掛けてお手入れをさせて頂いても、購入時の状態つまり新品の風合いそのものに戻すのは難しいという事。

出来るのは、あくまでも「素材が本来持つ自然な風合い」だと言う事です。

と言うのも、ほとんどの衣服は製造過程で艶感やハリ・コシ感、またヌメリ感と言った更に質感を高める為の加工が施されています。

いわゆる新調感という新品の衣服の風合いですね。

その加工の際に加工剤と言われるものを塗布しているのですが、この加工剤が洗うと落ちてしまうんです。

糊剤やワックスなどの加工剤を糸や生地に塗布しているようですが、それらは洗う事を前提に塗布されていません。

ですので当然ですがドライクリーニングでも水洗いでも同じように落ちてしまいます。

(水洗いの方が変化は大きく出ます)

「加工剤が落ちれば同じように加工剤を塗布すれば良いのでは」と思われるかも知れませんが、それがなかなか難しい。

同じ加工剤が一般クリーニング業者の手に入らない事もありますが、一番の原因は糸や生地の段階で加工されるという事。

衣服の形になってから塗布されるのではないんです。

ニットの場合はなんとか近い風合いに戻す事も出来ますが、毛織物の場合は難しくなる事があります。

と言うのも毛織物は加工剤を塗布した後に様々な物理的加工が施されます。

起毛させたり圧縮プレスを掛けたり、蒸らしを掛けたりもするみたいです。

そうやって新たに加工による風合いを施された服地を用いて衣服の形になります。

その加工剤が落ちてしまうと毛羽立ちを抑えるために加工されていた服地は当然毛羽立ちを起こしやすくなります。

毛羽立ちを起こしてしまうと毛並みも乱れ風合いも変わってしまいます。

毛羽立ち・起毛感は風合いのヌメリ感にも繋がりますのですごく重要なんです。

ただ単に起毛させていると”ぱさついた”質感になってしまいます。

毛並みを整えて、そしてある程度毛羽を寝かす事によって独特なヌメリ感が出ます。

(と、あくまで僕の考えですけど・・・)

つまりプレス工程が必要になるのですが衣服の形になった状態ではしっかりとプレス出来ない。

ヌメリ感をもたらすような風合いの服地はそれだけデリケートな素材です。

一枚布であればプレス出来るところも衣服の状態からでは裏地や芯地・縫い代などがある為にプレスをするとアタリ・テカリが出てしまう。

何とか近付けるよう知恵を絞りつつ工夫しているのですが・・・難しい場合もあります。

まだまだ未熟で申し訳ないのですが、ご理解頂ければと思います。

高級ドレスシャツは糊なしが今や常識のようになっていますが、同じように他の服地も加工剤を落とした自然な風合いを楽しめるような土壌になってくれれば良いのになって思うのですが・・・。

購入時の新品の状態を保ちたいのであれば洗わないという事も選択肢の一つになりますね。

となるとオンシーズンの着用の仕方や日々のメンテナンス、オフシーズンの保管方法やお手入れ方法も変わってきます。

ヨーロッパ貴族のような立ち居振る舞いで、日々のメンテナンスには従事が・・・とは大げさではないかと思います。

(「ダウントン・アビー」はその点でも参考になるドラマです)

全く洗わないという事は、衣服の状態を保つ全ての責任を負うと言う事。

結構大変だと思いますので、洗う事を前提とした購入を考えるほうが良いかなとクリーニング業者は思います。

ただ、洗うと加工剤が落ちて風合いが変わってしまう衣服であれば、販売する側も購入時にお伝えしないといけないと思うんですけどね。

「この風合いは洗うと変化しますよ」くらいはお客様にお伝えしないと。

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