スーツはドライクリーニングしてはいけない?
衣替えのこの時期、「スーツはクリーニングに出してはいけない」と言われる事があります。
「スーツをドライクリーニングするとウールが本来持つ油分が失われて風合いが損なわれる」からだそう。
上質なウール生地は「ぬめり感」や「しっとり感」といった独特な風合い・質感を持っています。
その「ぬめり感」がドライクリーニングをすると損なわれるからダメだという事みたいです。
本当なのかなって思うんですけど・・・。
そもそも「ぬめり感」は本当に油分だけがもたらす風合いなのか。
その「ぬめり感」が失われる原因は本当にドライクリーニングなのかという事も。
どうしてドライクリーニングをすると風合いを損なうのだろう
どうして「ドライクリーニングをすると風合いを損なう」となったのかを考えてみると・・・。
ある人が実際にスーツをドライクリーニングをした結果、「ぬめり感が無くなり風合いが悪くなっている!」となった。
ぬめり感・しっとり感はヌルっとした感触。
ヌルっとしてるのだから油ではないか、そういえばウールには油分が含まれている。
「ぬめり感」はウールが本来持つ油分が関係しているとなったのでは無いかと推測。
そういえばドライクリーニングは油汚れを落とすことに優れている。
という事はウールの本来持つ油分も落ちるのではないか。
ウールの本来持つ油分が落ちてしまえば当然「ぬめり感」も無くなってしまう。
という事で「ドライクリーニングはしてはいけない」となったのではないかと推測してしまいます。
「ぬめり感」を作り出す要因は
「ぬめり感」を感じる生地にはウールの他にもスエード生地や起毛コットン生地などにも感じる物があります。
スエードや起毛コットンに関係するものといえば起毛という事。
ウール生地も起毛素材の方が「ぬめり感」は感じますし、カシミヤ生地などはより一層感じます。
ウール生地は梳毛糸で織られた表面がキレイに見える生地でもウール繊維の性質上多少は起毛していますのでウール素材は特に風合いを感じるのかも知れません。
となれば、「油分」の他に「起毛」というキーワードが「ぬめり感」をもたらす要因にもなるのではないでしょうか。
ただ起毛させているだけでは「ぬめり感」をもたらすことは出来ないと思います。
毛羽の長さや方向を揃え、その表面をプレスして整える事で光沢感と同時に「しっとり感」といった独特な風合いが出るのではないかと。
その毛羽が整えられた生地が何らかの作用によって毛羽立ち乱れた事が「ぬめり感」が無くなり風合いが悪くなったという結果になるのではないかと。
もしそうであれば、毛羽が皮膚に当たる事が「ぬめり感」に通じるのであり、油分がある事は関係ないように思えるんですが。
去年の秋くらいでしょうか、風合いに関する研究結果を報じる記事を見かけました。
その研究結果によると、指に触れる時の摩擦力とその抵抗の落差のある感覚の組み合わせとあるので、あながち外れているとは思えません。
それってドライクリーニングのせい?
起毛が風合い変化のキーワードになるとすると、ドライクリーニングの溶剤による油分の溶解という事ではなく、持ち込まれたクリーニング店の洗浄方法・工程の作用によるものとも考えられないでしょうか。
洗浄工程での揉み叩き作用やドライクリーニング溶剤の品質もありますし、乾燥工程のタンブラー乾燥によっても物理的な作用が加わり毛羽立ち乱れたのではと。
そうなると「ドライクリーニングの油を落とす性質」が風合いを損ねているのではなく「持ち込まれたクリーニング店の洗浄方法・取り扱いの誤り」が生地の風合いを悪くしてしまったとも考えられます。
過度な洗浄方法や品質の悪い溶剤の使用も影響あるでしょうが、タンブラー乾燥を使用する事も毛羽立ちにはかなり影響すると思います。
少し湿った生地が直接揉み擦れ合うので、ドライクリーニング溶剤が関係しているとはいえ摩擦力は大きくなるのではないかと推測します。
実際、毛羽立ちますからね。
ドライクリーニングでウールから油分が失われたというデータがあったとすれば
ドライクリーニング後のウール繊維から油分が脱落したというデータがあるのかは分かりませんが、もしあるとすればそれは溶解したのではなく物理的な作用で分離したものではないでしょうか。
前述のような機械的作用が加わった結果、ウール繊維が傷つけられ表面に残留していたであろう油分が繊維の一部と共に剥がれ落ちてしまった。
実際、乱暴な取り扱いをするとウール繊維は傷つきますからね。
本来持つ天然の油分ですので生産時の洗浄工程では取り切れないスケールの隙間などに残留していたものではないかと。
それらが損傷して脱落した結果、油分も無くなる結果になる。
これって別にドライクリーニングの油汚れを落とすことに優れている性質が関係しているものではないですよね。
誤った情報に惑わされないで
長々と書きましたが(まだ書きたい事はありますが、また次回に)、風合いに関しては別の考え方もあるのではないかという事です。
短絡的に「ヌルっとした質感は油が関係しているから」という理由だけで何の根拠もなくドライクリーニングを悪者にされても・・・。
ドライクリーニングも一長一短があり、完璧な洗浄方法では無い事も確かです。
またドライクリーニング後の風合い変化の要因として、ドライクリーニングの洗浄方法や工程の他にも生地に施されている加工も考えられます。
ドライクリーニングで洗えば購入時の風合いを完全に保てるかと言えば必ずしもそうではありませんが、でもそれは水洗いでも同じ事。
ただ、間違った認識を与えられたが為に大切なお洋服の状態が悪くなるのが悲しいのです。
洗うという事はある程度のリスクが伴います。
そのリスクを最小限に留めながら、その風合いや質感を大切に維持し出来る限り長く着用出来るようにお手入れをさせて頂いています。
この続きは「ウールの風合いには天然油分が必要?の続き」をどうぞ。
ようやくブロック形式の書き込みにも慣れて来たので見出しも入れてみました。
「いかがでしょうか」って入れればよく見るまとめサイトのようになりそう。